航空業界向けエッジクラウド戦略
このレポートでは、世界の大手航空会社が一般公開しているWebサイトの配信に関するメトリクスを分析し、航空業界が直面しているセキュリティ、パフォーマンス、生産性に関する課題の多くをエッジクラウド戦略によって解決できる理由をご説明します。
内容
はじめに
航空会社は、予約に至らない訪問者の割合が高い (コンバージョン率が低い) という問題に加えて、複雑なインフラストラクチャや Sabre、Amadeus、Travelport、SITA といったサードパーティのレガシーシステムへの依存に関連する大きな課題を抱えています。また、常にボットや DDoS 攻撃などの脅威に晒されています。
このような問題から、サイトやアプリケーションのパフォーマンス、セキュリティ、運用効率の向上が困難になっているのです。しかし、スマートなエッジクラウド戦略を導入することで、さまざまなソリューションの利用が可能になります。
重要な役割を担うパフォーマンス
パフォーマンスは直帰率やコンバージョン率、組織が目標を達成できるかどうかに直接影響するため、非常に重要です。航空会社にとって最も重要なパフォーマンス指標のひとつに、予約に至る訪問者の割合 (look-to-book) があります。具体的には、Webサイトの訪問者数と実際に販売された航空券の数の対比を意味します。Amadeus によるレポートでは、以前は航空会社にとって低い値といえば「10:1」程度でしたが、現在は「1000:1」を上回ることもよくあると報告されています。全体的に旅行者が増加し、消費者による価格の検索回数が増えていることが背景にあります。また、競合企業や価格比較サービス、悪意のあるアクターが利用しているボットによるトラフィックの影響もあります。本物の人間の訪問者によるトラフィックの場合でも、訪問者が何度も検索したり、ルートや日付けを変えて比較したり、複数の価格比較サイトを使用したりするなど、予約前に入念に調べることが今では当たり前になりました。
従来のオンライン eコマースビジネスにおいて、サイトの高速化によってコンバージョン率が向上するように、航空会社にとってもWebサイトやアプリケーションのパフォーマンス強化が、予約に至る訪問者の割合やコンバージョン率を改善するうえで大切であるということが重要なポイントです。予約に至る訪問者の割合を増大させたい場合、アプリケーションのパフォーマンスが鍵となります。
旅行サイトの場合、モバイルサイトの速度が0.1秒改善するだけでコンバージョン率が10.1%向上します (リテールサイトでは8.4%向上) 出典
サイト速度の改善は、プロダクトリストのページから予約完了まで、モバイルプロセスの各段階でプラスの影響をもたらします 出典
ページの読み込み時間が1秒から3秒に増えると、直帰率が32%上昇する可能性があります 出典
重要な役割を担うセキュリティ
上述のパフォーマンスに関するポイントのいずれも、悪意のある攻撃 (DDoS 攻撃やボット攻撃など) によって訪問者がフライト情報にアクセスできない場合、まったく意味がありません。他の業界の大手企業と同様のセキュリティ脅威に航空会社も直面していますが、航空業界特有のボット問題があります。他の航空会社や価格比較サイトがボットを利用して頻繁に航空券の価格に関するリクエストを行うためです。セキュリティの欠如によってパフォーマンスが損なわれる可能性がある一方、セキュリティ戦略によってパフォーマンス上のボトルネックが発生し、せっかくのパフォーマンス改善が台無しになることもあります。
結果
Google は Web アプリケーションのパフォーマンスを評価する際、LCP (最も大きなコンテンツの表示にかかる時間) と TTFB (最初の1バイトを受信するまでの時間) のふたつを指標として使用しています。これらの指標は、訪問者がサイトにアクセスした際の最初の読み込み時間を示し、最初の読み込み後のサイトパフォーマンスのすべての要素を表してはいませんが、公開されているデータを使用できるため、異なるサイト間でユーザーエクスペリエンスのパフォーマンスを比較するうえで有意義な出発点と言えます。LCP について Google の定義を見てみると、2.5秒以下の場合はユーザーエクスペリエンスが「良好」とされ、4秒以上の場合は「不良」、その間の秒数の場合は「改善の余地あり」とみなされています。しかし、これらの数字がすべてではありません。出発点の結果がどうであっても、パフォーマンスを改善させることで、いつでもコンバージョン率とユーザーエクスペリエンスを向上させることが可能です。
このレポートでは、航空会社15社のWebサイトを Google の Core Web Vital しきい値に基づいてランク付けしました。
この中で、LCP が2.5秒以下で「良好」とみなされるパフォーマンスを示したサイトはありませんでした
4社のサイトのスコアが「改善の余地あり」でした (Emirates、Aer Lingus*、Lufthansa、Iberia*)
11社のサイトが「不良」とみなされるパフォーマンスを示しました (American Airlines、Southwest Airlines、KLM、Air France、Air France、Turkish Airlines、China Southern Airlines、United Airlines、Delta Air Lines、British Airways、Air Canada)
航空会社の選択方法に関する詳細については、このレポートの最後をご覧ください。
航空会社 | LCP P75 (秒) | TTFB P75 (秒) | Web Vitals レート |
---|---|---|---|
2.864 | 1.451 | "partial" | |
2.979 | 0.339 | "partial" | |
3.119 | 1.103 | "partial" | |
3.741 | 0.580 | "partial" | |
4.183 | 2.555 | "none" | |
4.279 | 0.497 | "none" | |
KLM** | 4.421 | 1.419 | "none" |
Air France US** | 4.510 | 1.401 | "none" |
Air France FR** | 4.656 | 1.066 | "none" |
4.677 | 1.144 | "none" | |
4.969 | 3.179 | "none" | |
4.990 | 0.898 | "none" | |
5.066 | 0.817 | "none" | |
5.249 | 2.157 | "none" | |
6.177 | 0.774 | "none" |
航空会社にとっての最適化の課題
予約に至る訪問者の割合は、サイトやアプリケーションの改善に取り組む航空会社にとって最も重要な KPI であり、以下の2つの要因によって大きく左右されます。
1. サイトのパフォーマンス
一般的な eコマースサイトや航空業界以外の旅行/サービス産業でも見られるように、貧しいサイトパフォーマンスは低いコンバージョン率と高い離脱率につながります。また、航空券を再販し、売り上げの一部をコミッションとして徴収するトラベルサイトを通じてよりも、航空券を直接販売することで航空会社はより多くの利益が得られます。しかし航空会社のサイトのパフォーマンスが悪いと、訪問者は別のサイトに移動して同じ航空券を購入する可能性があり、航空会社は本来得られるはずだった航空券の売り上げによる利益の一部を失いかねません。
2. サイトのセキュリティ
Webサイトやアプリケーション、API のセキュリティ対策の効果が低いとパフォーマンスの悪化を招き、予約に至る訪問者の割合を増加させるうえで大きな足かせとなる可能性があります。航空会社にとってボットは特に大きな問題です。価格スクレイピングなど、フライトのインベントリや空席情報に混乱をもたらすさまざまなアクティビティが存在します。場合によっては、ボットが不当にすべてのフライトの航空券を一度に押さえて購入不可能な状態にし、その後すべてを解放することさえあります。このような動作の理由が常に明確なわけではありません。旅行者が別のサイトで購入するように仕向けることが目的かもしれませんし、何らかの理由で後日までフライトの予約を押さえようとしているのかもしれません。このような行為はツアーオペレーターや価格エンジンによるものである場合もありますが、単に航空会社に混乱をもたらし、財務上の被害をもたらす悪意のある操作が原因であることもあります。目的にかかわらず、航空会社は顧客と売り上げの喪失を招くボットアクティビティのためにサイトホスティングとインフラの費用を支払うことになります。
航空会社は以下を含むさまざまな課題を抱えています。
複雑なインフラストラクチャ
航空会社は料金やインベントリ、フライトに関する情報を、コントロール不可能なサードパーティのバックエンドをひとつ以上含む、さまざまなソースから取得しています。さらに、最終目的地以外に1か所以上立ち寄り、複数の航空会社を利用するマルチレッグのフライトを予約する場合、航空会社は自社運航のフライトと他社運航のフライトに関するデータを集める必要があります。これらのシステムは、古く不安定な方法で連携しているケースが多く、航空会社は社内で直接解決で きない技術的負債を抱え、パートナーやプロバイダーがシステムを改良するのを待たなければなりません。
比較購買
最近の旅行者は航空券を購入する際、これまで以上に比較購買を行っているため、予約完了までに発生するリクエストが増えることになります。そのため、航空会社の予約用インフラストラクチャは大規模にスケールアップできる必要がありますが、安定性やスケーラビリティの強化を優先するためにスピードが犠牲になっている可能性があります。エンジニアリングチームはスケーラビリティを念頭に構築するため、パフォーマンスは二の次になってしまうのです。
リスク回避
航空会社は他の業界以上に障害が発生するリスクを回避しようとします。「安定していて信頼できる」という社会的なイメージを維持する必要があるためです。小規模なリテーラーやパブリッシャーの中には「素早く行動し、破壊せよ」という考えを実践しやすい企業もあるかもしれませんが、航空会社はそのようなアプローチを好みません。ダウンタイムが発生すると、ダメージを受けるのはイメージだけではなく、売り上げの大幅な損失にもつながります。販売量が減るのはもちろんですが、ダウンタイム中に顧客が旅行サイトや価格比較サイトに流れ、自社サイトで直接航空券を販売していたら得られたはずの利益の一部が失われます。