EU 一般データ保護規則 (GDPR) のプライバシー要件を遵守することは、特にセキュリティ侵害が発生した場合の多額な罰金を考えると、困難な課題だと言えます。違反すると深刻な結果を招いて高額な罰金を請求され、顧客の信頼も失いかねません。とはいえ、GDPR ほど複雑な規則に取り組む場合、どこから着手すべきか迷うこともあるでしょう。以下に、GDPR に関する重要なポイントを解説し、包括的かつ効果的なコンプライアンスプログラムを確立するための実践的な戦略を紹介します。
GDPR プライバシー法は、欧州連合 (EU) または欧州経済地域 (EEA) の居住者の個人データ保護を目的として EU が規定した権利と義務の枠組みであり、その対象地域には EU に加盟している全27か国に加え、アイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェーが含まれます。また、英国も自国のプライバシー法に GDPR を採用しています。GDPR は、個人のデジタル権、データ処理者の責務、容認される遵守方法、違反時の罰則を定めています。これは EU の法律ですが、EU や EEA の居住者と経済関係を有する全世界のあらゆる企業に適用されます。「経済関係」の対象には、顧客や従業員だけではなく無料サービスのユーザーも含まれます。この広範にわたる規則を理解する上で重要なポイントは以下のとおりです。
適用範囲 : GDPR は、EU 域内に拠点があり、データを管理または処理するすべての企業に適用されます。また、EU 域外の企業であっても、有料か無料かにかかわらず、EU や EAA の居住者に対して製品やサービスの提供、または行動のモニタリングを行う場合は GDPR の対象となります。
個人データの定義 : 企業はすべての個人データを保護する必要があります。これには、氏名、メールアドレス、IP アドレスなど、個人を 直接的または間接的に特定できるすべての情報が含まれます。
説明責任 : 企業は、データ処理活動に関する詳細なドキュメントを保持し、確固たるデータ保護措置を講じることで、GDPR への準拠を証明する必要があります。
透明性に関する要件 : GDPR は透明性を重視しており、企業に対し、データの使用方法について常にデータ主体に通知することを求めています。
GDPR の遵守は極めて重要です。セキュリティ侵害が発生すると、最高2,000万 EUR または全世界の年間売上高の 4% 相当額のいずれか高い方という高額な罰金を含む、深刻なペナルティを科される可能性があるからです。さらに、違反は訴訟や制裁措置を招くだけでなく、重大な評判の損害を引き起こす可能性もあります。 GDPR の主要なプライバシー要件
GDPR の主要なプライバシー要件では、データ主体の権利、同意の要件、データの最小化、目的の限定が取り上げられています。これらの規則について詳しく見ていきましょう。
データ主体の権利 : 企業は、個人が GDPR で認められた権利を完全に行使できるようにする必要があります。これには、個人のデータへのアクセス、修正、削除、処理方法への異議申し立てなどが含まれます。
同意の要件 : 企業は、個人のデータを収集または処理する前に、その個人から明確な同意を得る必要があります。
データの最小化 : 特定の目的を遂行する上で必要な個人データのみを収集、処理する必要があります。
目的の限定 : 個人データは明確かつ正当な目的においてのみ収集される必要があり、こうした目的と矛盾するかたちで使用することはできません。
GDPR の公式版は261ページもあり、膨大です。GDPR のプライバシー要件を遵守することは、法的、技術的、運用面での複雑さを伴い、あらゆる規模の企業にとって非常に高い負担となっています。課題には以下のようなものがあります。
データのローカライゼーション : 特に個人データを含む特定の種類のデータは、収集された国で保管さ れ、処理される必要があります。この要件は、GDPR の規定を遵守しながらグローバルにコンテンツを配信しようとする場合に課題となる場合があります。
同意の管理 : GDPR を遵守する上で、企業はユーザーのデータを処理する前に、明確かつ十分に情報を提供した上で同意を取得する必要があります。Webサイト、モバイルアプリ、その他のデジタルチャネルなど、さまざまなプラットフォームでこの同意を管理することは、特に広範なオンラインプレゼンスを有する企業の場合、複雑になる可能性があります。
透明性と説明責任の確保 : GDPR はまた、透明性と説明責任を重視しています。企業は、明確かつ包括的なプライバシー通知を作成する必要があります。しかし、多様なシステム、プラットフォーム、顧客の居住地などがそれぞれ異なる期待や法的基準を有する場合、それに対応する通知を作成することは困難です。
データセキュリティ侵害への対策 : データセキュリティ侵害は、遵守をさらに困難なものにします。データセキュリティ侵害が発生した場合、発生後72時間以内に関連当局に報告する必要があります。また、こうしたインシデントの検出、評価、対応を迅速に行える堅牢なセキュリティシステムを整備しておく必要もあります。しかし、サイバー脅威がますます進化している中で、社内リソースのみでセキュリティシステムの堅牢性を確保することは困難です。
国境を越えたデータ転送 : GDPR はデータ保護基準をグローバルに維持できるよう、EU 域外への個人データの転送に厳格な規則を設けています。EU に拠点を置き国際的に事業を展開する企業は、多くの場合、データを国際的に共有または転送する場合に、特に個人情報の含有の回避において GDPR の遵守が困難になります。
いくつかの重要な取り組みを実施することで、個人のプライバシー権を保護し、遵守にまつわるリスクを緩和し、多額の罰金を回避することができます。GDPR の遵守への取り組みを始めたばかりであっても、既存の対策を向上させる場合であっても、以下に挙げる実践的なステップによってデータ保護の枠組みを強化できます。
データ監査は、GDPR などの規則を遵守するための、企業のデータ処理活動に関する体系的なレビューです。こうしたデータの点検には以下が含まれます。
データマッピング : 組織内でのデータの流れを特定し、視覚化する
データインベントリ : すべてのデータ資産やその属性をカタログ化する
法的遵守のレビュー : GDPR などの関連するデータ保護法やデータ保護規則の遵守を確認する
アクセスコントロール : 誰がどのデータになぜアクセスしているのかを評価する
セキュリティ対策の評価 : 実施されているデータ保護対策の有効性を評価する
第三者評価 : 外部パートナーが自社のデータをどのように処理しているかをレビューする
リスク評価 : データセキュリティに対する潜在的な脆弱性や脅威を特定する
GDPR を遵守する上で、企業は個人データをセキュリティ侵害から保護するための強力な技術的およびプロセスベースの対策を講じることが不可欠です。データセキュリティ侵害の問題を解決するため、ファイアウォールおよび侵入検知システムを導入しましょう。また、ソフトウェアを定期的に更新し、セキュリティパッチを確実に、すべて適用することが重要です。さらに、トランジット中および保存中のデータを保護するために、暗号化を活用しましょう。
個人に対し、データの収集方法、利用目的、保存方法を明確に通知することが義務付けられています。アクセスしやすいプライバシー通知を作成し、データ使用に関するコミュニケーションでは平易な言葉を使用してください。プライバシーポリシーはすべてのプラットフォームにおいて簡単にアクセスできるようにし、また、透明性プロセスの定期的な見直しと更新を行いましょう。
GDPR 基準を遵守するために、個人が自身のデータにアクセスし、修正し、または削除できるようにするための、効率的なデータアクセス要求プロセスを組織内に整備する必要があります。すべてのデータ要求およびレスポンスを追跡、記録し、また、こうした要求を効率的に処理できるよう自社のスタッフに対してトレーニングを実施しましょう。
明確に義務付けられているわけではありませんが、GDPR では、データ保護をビジネスプロセスや技術の開発段階から導入することが強く推奨されています。この戦略によって、プライバシーを後付けではなく、初めから中核的な考慮事項にすることができます。