バーニー・ミーム以上 : 大統領就任式に我々が目撃したもの
世界的関心度の高い他のイベント同様、最近のアメリカ大統領就任式のオンライン報道は、少なくともここ十数年の間インターネットのトラフィックを大きく動かしてきました。新型コロナウイルス禍の影響や、連邦議会議事堂乱入事件に起因するセキュリティ強化によって、無観客で開催されたジョー・バイデン大統領とカマラ・ハリス副大統領の就任式。それは多くの意味で非常にユニークなイベントでした。このイベントでは、Fastly のデジタルメディア、ソーシャルメディア、ミームをシェアする顧客群全体を通じ、概ね予想通りのトラフィックパターンが発生しました。また、就任式開催中は、オンラインショッピングやバンキング、教育関連のコンテンツ利用は保留の傾向が見られました。この記事では、これら業界の顧客群を対象に、2021年1月20日の午前9時から午後3時まで(米国東部標準時)の間における Fastly プラットフォーム上での Requests per Second (RPS) トラフィックを集計、分析しました。注 : 表示時間はすべて米国東部標準時 (UTC-05) です。
デジタルメディア
下の図は、米国、EMEA (ヨーロッパ、中東、アフリカ)、およびアジア太平洋地域における Fastly デジタルメディアストリーミングおよびデジタルメディアパブリッシング関連顧客群の RPS トラフィックを示しています。
グラフ内には就任式中の主なイベントが示されていますが、そのいずれでもトラフィックが大幅にスパイクした様子はありません。その代わり、トラフィックは朝から順調に増加し、バイデン大統領の演説の途中、午後12時4分にピークを迎えて3時間前に比べ91%の増加となりました。その後、トラフィックは徐々に減少していきましたが、午後3時でも6時間前より36%の増加をキープしていました。これは、ユーザーが就任式後もサイトに留まって報道を視聴し続け、関連コンテンツを消費し続けていたことを示しています。
2021年1月の間、事件が起きるのは水曜日が多く、就任式の前の週には弾劾と連邦議会議事堂乱入事件が発生しました。上の図は、1月20日の選挙期間中のデジタルメディアストリーミングおよびパブリッシング関連顧客群の RPS トラフィックを、その1週間前 (1月13日) と2週間前 (1月6日) の同期間と比較したものです。就任式当日の午前9時の時点におけるこれら顧客のトラフィックは、前週の水曜日と比較して31%、2週間前の同時間帯と比較して19%増加しています。一方、就任式当日の午後12時4分のピークトラフィックレベルは、前週の同時間より100%、2週間前の同時間よりも92%高くなっています。
この図では、1月13日と1月6日両日の午前中にトラフィックが徐々に増加していることが分かりますが、1月6日の正午以降の方が急速に増加していることは明らかです。ワシントン・ポスト紙のタイムラインによると、トランプ前大統領は正午から「アメリカを救え (Save America)」集会で話し始め、その演説は1時間以上続きました。トランプ前大統領の支持者は、演説中から演説後にかけて連邦議会議事堂に集まり始め、午後2時までにはバリケードを突き破り、連邦議会議事堂のドアに到達しています。メディアは事件の展開に合わせて報道を増加させていったため、1月6日におけるグラフの変曲点は明らかです。
次のセクションでは、就任式開催中の動向をより分かりやすくするため、図表上午前9時時点での RPS トラフィックを標準値としています。就任式式典そのものは午後1時頃に終了しましたが、その後のトラフィックの傾向を示すため、午後3時までのトラフィックデータを分析しています。また上の図同様、就任式中に起きた主な出来事がグラフ上に書き込まれています。
ミームとソーシャル
ミームの作成と共有は、現代のネット文化において無視できない不可欠な一部となっており、バイデン/ハリスの就任式もそれなりに奮闘したものの、最終的には厚手のミトンに身を包んだバーモント州選出のバーニー・サンダース上院議員のミームに主役の座を奪われる結果になりました。そしてもちろん、これらミームは、就任式中の解説や観察に加えて、ソーシャルメディアのプラットフォームを通じて全世界に共有されました。
就任式当日のミームの作成と共有トラフィックは、前週水曜日の午前9時に比べすでに5%増加していました (グラフには表示されていません)。ピークはジョー・バイデン氏が第46代大統領に就任した直後の午前11時50分で、午前9時に比べて24%増、前週の同時刻に比べると23%増にリーチしていました。ミームのトラフィックはピークを迎えた後急速に減少し、午後1時30分頃までには開始時の水準を下回りました。
ソーシャルメディアのトラフィックも好調な滑り出しで、前週水曜日の午前9時と比較して6.2%増となっています(グラフには表示されていません)。就任式中のソーシャルトラフィックのピークは、バイデン大統領の演説の約5分後の午前11時58分でした。ピークトラフィックは午前9時より38%高く、前週の同時刻よりも29%高くなっています。ソーシャルトラフィックは、カラーガードが午後12時30分にナショナルカラーを退場させた後減少が目立ちましたが、午後3時までは増加したままでした。
オンラインコマース
2009年のオバマ大統領の就任式で Google が行った以前の観測を基に、就任式の間にさまざまなタイプのインターネット活動へのトラフィックがどのように変化したかを調べ、同様の動作が十数年後にも当てはまるかどうかを探りました。
上の図は、2020年12月のブログ記事「サイバーファイブ : eコマースのビッグウィークで見たもの」でも分析言及した、米国および EMEA におけるオンラインコマース顧客群による就任式中の RPS トラフィックを示しています。
米国のコマース顧客のトラフィックに見られる変化を、就任式中のイベントタイムラインと比較すると、いくつかの変化がショッピング活動の増減と相関していることが分かります。コマース顧客群のトラフィックは、午前9時から式典中のピークである礼拝の直前まで (午前11時28分) に29%増加しました。その後、国歌斉唱、忠誠の誓い、カマラ・ハリス副大統領の宣誓、そしてジョー・バイデン大統領の宣誓が行われた後の午前11時49分の時点では、トラフィックは16%減少し、式典中最も低いレベルに達しました。バイデン大統領の演説中に、ショッピング活動が再び活発になり、15%増加したものの、その後カントリー歌手ガース・ブルックスによる讃美歌「アメージンググレイス」の歌唱がオンラインストアから関心を奪い、6.2%のトラフィック減になりました。全米青年詩人賞の初代受賞者であるアマンダ・ゴーマンの朗読は賞賛を浴びましたが、オンラインコマースのトラフィックは彼女の登場と同時にまた増加し始め、午後全体を通じて上昇し続けました。前週の水曜日との比較では、午前9時の時点では2.9%減、午前11時49分には15%減となっています (グラフには表示されていません)。
ショッピング活動の変化とイベントの相関関係は、EMEA コマースの顧客トラフィックにも見られますが、その差はそれほど大きくなく、ボリュームも多くはありませんでした。トラフィックの増加は、午前9時から礼拝の直前、就任式のピークまでに12%程度でした。米国コマース同様、トラフィックはジョー・バイデン大統領の就任式まで6.0%減少した後、残りの期間中に増加に転じました。この就任式が EMEA の消費者にとっての関心事であったことは間違いありませんが、米国国内ほどの注目度はなく、午前9時におけるトラフィックは1週間前の同時刻と比較して8.3%増、最低地点では1月13日の同時刻より1.2%増程度にとどまりました (グラフには表示されていません)。
ファイナンスサービスと教育
さらに、就任式は、米国および EMEA のリテーラーへのコマーストラフィックだけでなく、Fastly のファイナンシャルサービスおよび教育関連企業のサイトへのトラフィック変化とも相関関係がある可能性があります。
コマース観測同様、ファイナンシャルサービスと教育群のトラフィックは午前9時から午前11時30分の礼拝までの間に増加しました。この間、ファイナンスサービスのトラフィックは20%、教育関連は30%増加しました。ハリス副大統領とバイデン大統領が宣誓するまでの20分間には、どちらも8%の低下が見られました。ファイナンスサービスのトラフィックはその後急速に回復しましたが、教育関連の回復にはより時間がかかりました。就任式およびその後のイベントの教育的価値を考えると、教育ツールやプラットフォームへのトラフィック回復に時間がかかったのは当然です。ファイナンスサービスのトラフィックのシフトは、コマース活動におけるトラフィックの変化に牽引された部分もあります。
1週間前を振り返ってみると、ファイナンスサービスのトラフィックは午前9時時点で2.4%低下し、就任式中の最低点では1週間前の同時刻に比べて12%低くなっています (グラフには表示されていません)。一方教育関連のトラフィックは、1月13日の午前9時に比べ1%増加しているものの、就任式中の最低点では1週間前の同時刻に比べ4.5%下回っています (グラフには表示されていません)。
最後に
世界中のデジタルメディアプラットフォームの存在は、バイデン/ハリス就任式への一般市民のバーチャル参加を可能にし、トラフィックに顕著な増加をもたらしました。主要なメディアイベントはオンラインでライブ視聴するのが基本の現代では、ほぼ想定通りの結果だったと言えるでしょう。しかし、今回の大統領就任式がオンラインコマースや金融、教育関連のサイトトラフィックに与えた影響は大きく、注目に値します。カマラ・ハリス副大統領とジョー・バイデン大統領の就任は、これらの業界のアクティビティを鈍化させるほどの影響力があったのです。