トラフィックトレンド : 2021年第2四半期に観測されたインターネット接続の障害
インターネットは世界中で日常生活の一部と化しているため、接続できない状況が発生すると深刻な影響を及ぼす可能性があります。しかし残念ながら、インターネットの中断もまた日常的に発生しています。インターネット「スタック」の構成は複雑なため、物理的なインフラストラクチャ、ネットワーク層、アプリケーション、さらには地域の政治や政策の中にも障害を生む可能性のあるポイントが存在します。インターネット接続の中断が広範囲で発生した場合、トラフィックパターンが変化し、通常これらの変化が Fastly のトラフィックデータに反映されます。
2021年の第2四半期には、計画的、または予定外のさまざまな理由により、世界各地でインターネット接続の中断が多数発生しました。この記事では、その概要についてご紹介します。
停電、台風、ファイバーケーブルの切断
5月21日、ヨルダンで電気系統のトラブルが発生し、数時間にわたってインターネット接続が中断されました。プエルトリコでは、6月10日に変電所で発生した火災が原因で停電が発生し、島全体のインターネット接続が中断されました。またインドのゴアでは、サイクロン「Tauktae」による悪天候でインフラストラクチャが損傷し、5月16日から一部でインターネット接続が中断されました。その際、ローカルのワイヤレス接続は固定/有線インフラストラクチャよりも早く復旧しました。この他にも、バージン諸島のセントクロイ島では、工事によるファイバーケーブルの切断によってインターネット接続が中断され、ブリティッシュコロンビア州のタンブラーリッジでは、ビーバーが光ファイバーケーブルを噛み切ったことにより、一部の地域でインターネット接続が中断されました。
インターネットの夜間禁止令
この種の物理的なインフラストラクチャの問題に加え、前述のように、政治的な問題によりインターネットが中断される場合も多く、地方、地域、または国の政府がインターネット接続を遮断する場合もあります。ミャンマーでは、民主化運動の高まりを受け、2月中旬に政府がいわゆる「インターネットの夜間禁止令」を実施し、毎晩、ほぼ完全にインターネットが遮断されました。同政府は2か月半後の4月末にこの施策を終了しました。
不正の防止
新型コロナウィルスのパンデミックが発生した際には、学校や大学が閉鎖され、オンライン学習への切り替えが急速に進んだことからもわかるように、教育面でもインターネット接続の重要性がますます高まっています。しかし2015年以降、複数の国で従来のオフライン学習を原因とするインターネットの切断が発生しています。矛盾しているように感じるのは皆さんだけではありません。これらの国では、国家試験での不正行為を防止するため、政府が試験期間中、数日から数週間にわたって毎日数時間、全国規模でインターネットを遮断しているのです。(過去には、全国に試験問題が配布されると、試験前にオンライン上で問題が流出し、不正者が問題の解答を提供していました。) このような不正行為を防ぐため、シリア、アルジェリア、スーダンでは、2021年第2四半期に数日にわたって試験に関連したインターネットの中断が実施されました。
シリアでは5月31日から6月22日にかけて、計9回にわたり、数日おきに1:00 - 5:30 UTC (現地時間4:00 - 8:30) の間、全国規模でインターネット接続の遮断が計画的に実施されました。下の図は、これらの遮断が Fastly のシリアへのトラフィックに与えた影響を示しています。遮断された期間中、シリアへのトラフィック量はほぼゼロになっています。同国がこのような極端な措置を初めて実施したのは2016年のことで、6月に行われた一次試験と、7月と8月に行われた再試験において実施されました。
シリアへの Fastly のトラフィック量 (2021年5月30日 - 6月28日)
アルジェリアでも2016年以降、試験での不正行為を防ぐためにインターネットを遮断しています。今年は6月20日から24日までの間に実施されましたが、全国規模の完全な停止ではありませんでした。インターネット研究者の Ali Sibai 氏は、Twitter のスレッドで、現地の情報筋によると、1日に2回の中断が行われたと述べています。1回目は7:00 - 11:00 UTC (現地時間8:00 - 12:00)、2回目は13:30 - 16:00 UTC (現地時間14:30 - 17:00) の間に行われました。これら二度の中断による影響は、以下の図で見ることができます。最初の中断は、その日のトラフィック量が増加し始めたときに行われ、グラフの最初と最後の日の同じ時間帯に比べてトラフィック量が減少していることがわかります。昼食時に制限が一時的に解除されたことに伴いトラフィック量が急上昇した後、夕方にトラフィック量が通常のレベルに戻るまで2回目の中断が行われたことがはっきりと見てとれます。アルジェリアではこれまで、バカロレア試験での不正行為を防ぐために、このようなインターネットの中断を実施してきました。さらに、携帯電話の電波を妨害する装置を配備したり、インターネットに接続可能な「スマートデバイス」を試験会場から排除するなどの措置を講じています。
アルジェリアへの Fastly のトラフィック量 (2021年6月19日 - 25日)
シリアと同様に、スーダンでも6月19日から30日にかけて9回に及ぶインターネットの遮断が計画され、6:00 - 9:00 UTC (現地時間8:00 - 11:00) の間に実施されました。下の図に示すように、アルジェリアでのアクティビティに類似しており、完全に遮断されたわけではなかったようです。ネットワークレベルのデータによると、他のローカル・ネットワーク・プロバイダーへのトラフィックがほとんどなくなったにもかかわらず、Sudatel Network Group にはトラフィックが流れ続けていました。スーダン政府が試験の不正行為を防止するためにインターネット接続を中断したのは今年で2回目のようですが、同国では少なくとも2013年から政府主導によるインターネット接続の中断が発生しています。
スーダンへの Fastly のトラフィック量 (2021年6月18日 - 30日)
最後に
一部の国では、国家試験の問題や解答が拡散する可能性のあるソーシャルメディアサイトへのアクセスを防ぐため、ほぼすべてのインターネット接続を遮断するという容赦のない方法で国家規模のインターネットの中断が行われています。前述の三か国だけでなく、エチオピア、イラク、モーリタニア、ウズベキスタン、インドなどでも、ここ数年、同様の措置がとられています。しかしイラクは2019年に、試験問題が漏えいする可能性を排除するため、試験問題をテストセンターに電子送信する試みに成功したと発表しました。他の国でも同様の手法が導入されるようになれば、インターネットを遮断する理由の1つをなくすことができます。
このような取り組みが実際に不正行為の防止に役立っているかどうかは不明ですが、試験のためでもその他の理由でも、インターネットの遮断は、経済やテクノロジー、そして人権においても広範な影響を及ぼします。私たちは今後も引き続き Fastly のデータを活用し、世界各地のインターネット接続の障害を可視化することで、そのような行為をなくすための取り組みをサポートします。