ネットからの切断 : 2021年第3四半期に観測されたインターネット接続の障害
地域レベルの小規模なインターネット接続の障害は毎日のように発生しており、その間、お気に入りのソーシャルメディアやニュース、eコマースサイトにアクセスできず、友人や家族、同僚にメッセージを送ることすらできないユーザーは不満を感じています。通常、このような障害はすぐに解決されるため、トラフィック分析のモニタリングを通じて外部の観測者がこれらを特定するのは困難です。
しかしその一方で、大規模な障害が頻繁に発生しているのも事実です。停電やインフラストラクチャの破損など、避けられない原因による障害もありますが、地方自治体や国の政府の指示によって、インターネット接続を含む通信サービスの遮断が計画的に実施される場合もあります。いずれにしても、大規模なインターネット接続の障害によって、数時間、あるいは数日から数週間にわたってネッ トが使えなくなることがあります。企業やエンドユーザーはインターネット接続の問題を認識し、パターンを特定して主な傾向を理解することで、グローバルコミュニティの一員として、毎日の生活に欠かせないアクティビティに支障をきたすインターネット障害の緩和に貢献できます。
その一環として Fastly では、世界中のインシデントをモニタリングし、観測結果を可能な限り透明な形でコミュニティと共有しています。2021年の第3四半期には、計画的、または予定外のさまざまな理由により、世界各地でインターネット接続の障害が多数発生しました。この記事では、その概要についてご紹介します。
停電
当然のことながら、安定したインターネットの接続には、安定した電力供給が欠かせません。プロバイダーの場合、重要なインフラストラクチャのコンポーネントの稼働を維持するのにバックアップの発電機が必要になる場合があります。一方ユーザーは、インターネットにモバイルアクセスするために、ルーターやコンピューターをネットに接続したり、携帯電話を充電するのに電力が必要です。停電が発生すると、影響を受けた地域への Fastly のトラフィックに停電の影響がすぐに反映されます。
8月8日、ザンビアの国営電力会社 ZESCO Limited は、システム障害によって国のほぼ全域にわたって停電が発生した後、ツイッターで電力供給の復旧を報告しました。午後に数時間にわたって発生したこの停電によるインターネット接続への影響が、以下の州と都市レベルのグラフに表われています。前後の日付のトラフィックと比較して、この時間帯のトラフィックが低下しているのが分かります。(州レベルのグラフにある数字は、国連 LOCODE ISO 3166-2 で定 められた地域コードを示しています。)
ザンビアへの Fastly のトラフィック-州レベル (2021年8月7 - 9日)
ザンビアへの Fastly のトラフィック-都市レベル (2021年8月7 - 9日)
しかし、システム障害だけが停電によるインターネット接続の中断を引き起こすわけではありません。悪天候によりインフラストラクチャが損傷して停電が発生することもあります。例えば、8月29日にハリケーン「アイダ」がニューオリンズに上陸した際にこのような状況が起こりました。以下のグラフが示すように、ニューオリンズの住民が避難を開始した28日、ニューオリンズのユーザーへの Fastly のトラフィックが減少し始めました。しかし、トラフィックの減少が最も大きかったのは、電力会社の Entergy が「ニューオリンズ地区に電力を供給している8つの送電線すべてで現在サービスが中断されている」と、状況を報告したときでした。そのおよそ2週間後にピーク時のトラフックレベルがハリケーン上陸前のレベルに戻り、Entergy も同じころに「ハリケーン・アイダがルイジアナを襲ってから2週間が経ちましたが、お客様の90% にあたる82万3,000世帯への電力供給が復旧しました」と報告していました。
ルイジアナ州ニューオリンズへの Fastly のトラフィック (2021年8月26日 - 9月14日)
この期間におけるニューオリンズへの Fastly のトラフィックをローカル・ネットワーク・プロバイダー別に見ると、いくつかの興味深い点に気付きます。ハリケーン・アイダの上陸前、Cox Communications がニューオリンズに流れる Fastly のトラフィックの大部分を扱っていました。Entergy の電力インフラストラクチャと、Cox の基地局やケーブルが破損した結果、数日にわたってトラフィック量がほぼゼロになりました。インターネットに接続できないユーザーは、モバイル・ネットワーク・プロバイダーを通じて接続しようとしました。ワイヤー接続が本格的に復旧するまで、Fastly はわずかながら一定レベルのモバイルトラフィックがニューオリンズに流れているのを観測しました。
ルイジアナ州ニューオリンズへの Fastly のトラフィック - ローカルネットワーク別 (2021年8月26日 - 9月14日)
また、電力の使用そのものにも目を向ける必要があります。プエルトリコでは9月末、脆弱な電力インフラストラクチャのせいで、国中で多数の停電が発生しました。同国の送配電システムを担う Luma Energy は、システムへの負荷を軽減するために、電力系統の一部を遮断する必要があったと説明しました。以下のグラフを見ると、9月26日にプエルトリコからのピーク時の Fastly のトラフィックが前日に比べて20%ほど減少し、翌日にはさらに15 - 25% 減っていることが分かります。9月26日のトラフィックパターンが前後の日付と異なる点にも ご注目ください。他の日はピークが01:00 GMT (現地時間21:00) に一度見られただけでしたが、26日は15:00と00:00 GMT (現地時間11:00と20:00) にピークが見られました。ただし、この通常とは異なるトラフィックパターンが停電の影響によるものかどうかは定かではありません。
プエルトリコへの Fastly のトラフィック - 都市レベル (2021年9月24 - 30日)
プエルトリコへの Fastly のトラフィック - ローカルネットワーク別 (2021年9月24 - 30日)
ケーブルの切断
CANTV はベネズエラの国営電話・インターネットサービスプロバイダーです。7月14日に同社は、光ファイバーケーブルの切断により、複数の地域でインターネットサービスに障害が発生しているとツイートしました。CANTV からの Fastly のトラフィックは16:00 UTC (現地時 間12:00) ごろに減少し、00:00 UTC (現地時間20:00) ごろに通常のレベルに戻りました。
さらに、CANTV は9月21日にも3つの光ファイバーケーブルの切断によりインターネットサービスに障害が発生したと報告しています。
ベネズエラの CANTV への Fastly のトラフィック (2021年7月13-15日)
7月22日、Center for Applied Internet Data Analysis は、ナミビアで2度にわたるインターネット障害が検出されたと公表しました。一回目は23:00 UTC (現地時間01:00) 前に始まり、二回目は02:00 UTC (現地時間04:00) に発生しました。これらのイベントを以下のグラフでも確認できます。
ナミビアへの Fastly のトラフィック (2021年7月21日 - 22日)
また別のリサーチでは、カメルーンとコンゴで同時にインターネット接続の障害が発生したことが報告され、以下のグラフでその様子がはっきりと分かります。このように障害が複数の国で同時に発生した場合、海底ケーブルなど、影響を受けた国が共同で使用しているネットワークインフラに原因があったことが疑われます。そこで TeleGeography の海底ケーブルマップを確認したところ、西アフリカケーブルシステム (WACS) がこれらの国に接続されていることが分かりました。この障害の根本原因に関する正式な発表はありませんでしたが、過去に WACS ケーブルの破損が原因でこれらの国でインターネット接続の障害が発生したことがあるため、今回も WACS ケーブルに原因があった可能性が高いです。
カメルーンへの Fastly のトラフィック (2021年7月21日 - 22日)
コンゴへの Fastly のトラフィック (2021年7月21 - 22日)
海底ケーブルの予期せぬ破損によってインターネット接続の障害が発生する一方で、計画的なメンテナンス作業によってインターネット接続が中断される場合もあります。7月24 - 25日の週末にかけて、Seychelles Cable System Company は、島国のセーシェルとアフリカ大陸のタンザニアを結ぶ セーシェル東アフリカシステム (SEAS)の海底ケーブルのメンテナンス作業を実施しました。以下のグラフを見ると、7月24日の12:00 UTC (現地時間22:00) ごろから25日の12:00 UTC (現地時間16:00) ごろにかけてセーシェルへの Fastly のトラフィックが低下していることが分かります。このメンテナンス期間中、通信会社 Cable & Wireless Seychelles へのトラフィックが完全に途絶えました。
セーシェルへの Fastly のトラフィック (2021年7月24 - 25日)
セーシェルへの Fastly のトラフィッ ク - ローカルネットワーク別 (2021年7月24 - 25日)
8月17日の夜から翌日の朝にかけて、EMTS Nigeria (9mobile」として事業を展開している Emerging Markets Telecommunication Services Ltd.) への Fastly のトラフィックが大幅に中断され、以下のグラフが示すように、約3時間にわたってトラフィックがほぼ完全に止まりました。9Mobile は、この障害の原因がファイバーインフラストラクチャの損傷であることを Facebook の投稿で明らかにしました。
ナイジェリアの EMTS Nigeria/9Mobile への Fastly のトラフィック (2021年8月17-18日)
試験の不正防止
第2四半期のトラフィックに関するブログ記事で触れたように、シリアでは国家試験での不正を防ぐため、少なくとも2016年以降、試験期間中に全国規模でインターネット接続を遮断しています。8月上旬、一次試験 (5月/6月) で不合格だった受験者のための二次試験に関連していると思われるインターネット接続の中断が数回発生しました。8月第一週における Syrian Telecom からの Fastly のトラフィックを示している以下のグラフを見ると、8月1日、3日、5日の02:00 - 05:00 UTC (現地時間05:00-08:00) にトラフィックが完全に途絶えていることが分かります。Syrian Telecom は政府系の通信事業者で、シリア内外へのインターネットトラフィックの主要ゲートウェイとして機能しているため、同社によってインターネットへの接続が遮断された3時間、事実上シリア全体がインターネットから切断されました。
Syrian Telecom への Fastly のトラフィック (2021年8月1 - 7日)
インドもインターネット接続の遮断が頻繁に起きている国の一つです。トラッキングサイトの SFLC.in によると、500件以上の地域的な遮断が過去10年間に発生しており、多くは地域の政治的な混乱への対応の一環として実施されたものでした。そんなインドで9月、ラジャスタン州の複数の都市で、教員資格認定試験における不正行為を防ぐため、数時間にわたってインターネット接続が遮断されました。この試験は、公立の小中学校で教員として働く資格を得るためのものです。
インドの5つの都市 (ジャイプール、アルワル、アジメール、シカール、ナーガウル) から Fastly へのトラフィックを示している以下のグラフでは、インターネット接続の遮断が実施された02:30-11:30 GMT (現地時間08:00 - 17:00) の間、トラフィック量が低下しているのがはっきり分かります。この遮断により、一部の受験者が不正を行うのを回避できたかもしれませんが、それに負けじと別のテクノロジーソリューションを利用して不正を試みる者もいました。実際、複数の受験者の靴の中に Bluetooth デバイスが組み込まれているのが見つかったという報告があります。これほど長時間ではありませんでしたが、アルナチャル・プラデーシュ州でも、8月1日に国家公務員試験における不正を防止するために同様のインターネット接続の遮断が実施されました。
インドのジャイプール、アルワル、アジメール、シカール、ナーガウルへの Fastly のトラフィック (2021年9月25 - 27日)
政府の指示による遮断
計画的または突然発生したデモへの対応として、政府がインターネット接続を遮断するケースがよくあります。例えば、キューバ政府は7月11日、過去数十年で最大規模の反政府運動に対抗してこのような遮断を実行しました。以下のグラフは、キューバにおける通信サービスの主要プロバイダーで国営の Empresa de Telecomunicaciones de Cuba S.A. (ETECSA) への Fastly のトラフィックを示しています。同社のネットワークからのトラフィックが 20:00 UTC (現地時間16:00) ごろから完全に途絶え、この状態が30分近く続いたことが分かります。短期間のトラフィックスパイクがいくつか見られたものの、22:30 UTC (現地時間18:30) ごろまで通常よりも少ないレベルでトラフィック量が推移していました。
Empresa de Telecomunicaciones de Cuba S.A. への Fastly のトラフィック (2021年7月11日)
その週の終わりにかけて、同様の状況が発生しました。ただし7月17日に行われたのは市民によるデモではなく、政府主催の集会でした。以下のグラフでは、17日のお昼ごろと夜にインターネット接続の障害が見られます。最初の障害は14:00 UTC から17:00 UTC ごろまで (現地時間10:00 - 13:00) 3時間ほど続き、2回目の障害は21:00 UTC (現地時間17:00) ごろに始まり、23:30 UTC (現地時間19:30) すぎまで続きました。
Fastly のトラフィックデータによると、7月26日の18:30 UTC から19:45 UTC (現地時間14:30 - 15:45) にかけても明 らかなインターネット接続の障害が見られました。その日にデモが行われたという記録はありませんが、その日は1953年にフィデル・カストロが反政府革命軍を率いて当時の大統領フルヘンシオ・バティスタへの攻撃を開始し、同国で社会主義革命の口火が切られた記念日でした。
Empresa de Telecomunicaciones de Cuba S.A. への Fastly のトラフィック (2021年7月17日)
Empresa de Telecomunicaciones de Cuba S.A. への Fastly のトラフィック (2021年7月26日)
南スーダンでは、8月末に活動家たちがサルバ・キール大統領の政府に対する抗議デモを呼びかけ、同大統領の辞任を要求しました。以下のグラフでは、この抗議活動の時期と重なる8月29日の夜にインターネット接続の障害が見られ、19:00から22:00 UTC (現地時間21:00 - 00:00) にかけて MTN South Sudan からのFastly へのトラフィックがゼロになりました。南スーダン政府はインターネット接続の遮断は抗議活動とは無関係であると主張し、技術的なトラブルが原因だったと説明しましたが、MTN South Sudan のフェイスブックやツイッターのアカウントを確認しても、インフラストラクチャの損傷やシステム設定のトラブルなどの報告はありませんでした。
南スーダンへの Fastly のトラフィック - ローカルネットワーク別 (2021年8月28 - 30日)
また、ナイジェリアでは8月の終わりから9月にかけて、複数の州政府が「野蛮な」攻撃活動を食い止めることを目的に、無法集団の連携を妨げることで地元の治安部隊がこれらの集団を弾圧できるようインターネットサービスを遮断しました。ザムファラ州やカツィナ州、ソコト州などでは、このような遮断が実施され、以下のグラフでその影響を確認でき ます。
ザムファラ州では、8月30日に MTN Nigeria への Fastly のトラフックが事実上途絶えました。カツィナ州でも、9月13日以降に同様のトラフィックパターンが見られました。さらにソコト州でも、9月20日に MTN Nigeria のトラフィックがゼロになりました。ただし、インターネット接続の遮断は完全なものであったわけではなく、Airtel Networks Nigeria やその他の小規模プロバイダーへのトラフィックがわずかながらグラフで確認できます。
ナイジェリアのザムファラ州への Fastly のトラフィック - ローカルネットワーク別 (2021年8月1日 - 9月30日)
ナイジェリアのカツィナ州への Fastly のトラフィック - ローカルネットワーク別 (2021年8月1日 - 9月30日)
ナイジェリアのソコト州への Fastly のトラフィック - ローカルネットワーク別 (2021年8月1日 - 9月30日)
ロックダウンで加速するオンライン化
インターネット接続の意図的な遮断に加えて、停電やその他の原因による接続の中断によって Fastly のトラフィックが減少した様子を説明してきましたが、毎日の生活におけるインターネットの重要性と、インターネットへの接続が制限されたり中断された場合に市民に与える影響を理解する必要があります。特にトラフィック量が増大するなか、インターネットの重要性がさらに増しています。例えばニュージーランドでは、6か月ぶりにオークランドで新型コロナウイルスの感染が確認されたのに続き、8月18日に最高レベルの厳戒態勢を意味するレベル4のロックダウンが実施されました。
以下のグラフで明らかなように、ニュージーランドにおけるピーク時の Fastly のトラフィックレベルが18日以降、20%跳ね上がりました。当初は3日間の全国的なロックダウンが予定されていましたが、さらに複数の新規感染が報告されたため、8月末まで延長されました。外出が厳しく制限される中、ニュージーランドの市民はインターネットを通じてニュースやエンターテイメントサイトにアクセスし、ネットショップで買い物をし、家族や友人との交流もオンラインプラットフォームで行うようになりました。
ニュージーランドへの Fastly のトラフィック (2021年8月1 - 31日)
まとめ
この記事でご紹介した世界各地のインターネット接続の障害では、影響を受けた地域のユーザはオフラインの状況に置かれましたが、ニュージーランドでは新型コロナウイルスの感染拡大に伴いロックダウンが再導入された際、日常生活のオンライン化が進 みました。これは、コロナウイルス感染症のパンデミックが始まった1年半前に観測した行動パターンとよく似ています。当時、学校閉鎖とステイホームの指示により、人々は仕事や学習、買い物、その他のアクティビティをオンラインで行うようになりました。
停電やインフラストラクチャの損傷によるインターネット接続の障害は多くの場合、回避することが困難ですが、政府の指示によるインターネット接続の遮断はこれに当てはまりません。通常、このような行為は大きなダメージを伴います。私たちは今後も引き続き Fastly のデータを活用し、世界各地のインターネット接続の障害を可視化することで、そのような行為をなくすための取り組みをサポートします。