アジア・太平洋系米国人の文化遺産継承月間 : テック業界におけるアジア人の経験
インクルーシブな職場づくりに尽力している Fastly は、多様性と一体性の推進は、社員一人ひとりが担うべきミッションであると考えています。これを念頭に置き、Inclusion and Diversity チームは、学習イベント、Inclusion Council、Fastly Asians Coming Together (FACT) などの従業員リソースグループを開発し、全社的なインクルージョンの取り組みの基盤を築いてきました。
5月のアジア・太平洋系米国人 (AAPI) 文化遺産継承月間の一環として、FACT はキャリアパネルを開催し、以下を含めるテック企業で活躍するアジア系リーダーを招待しました。
Grace Dolan 氏、Vice President of Marketing (Samsung)
Jully Kim 氏、Engineering Practices and Enablement、Senior Director (Zendesk)
Saurabh Sharma 氏、Senior Director (Google)
Rajib Rashid、Vice President of Product Management (Fastly)
Kimmie Nguyen、Vice President of Product Growth & Strategy (Fastly) (司会)
参加者は、さまざまなアジア系文化的背景が、キャリアの歩みやリーダーへの昇進にどのように影響したかについて考察しました。今回は、よりインクルーシブなコミュニティを構築するための取り組みの一環として、このパネルから得られた重要な学びや考えをご紹介します。
「モデルマイノリティ」の俗説
アジア系米国人は、歴史的な人種差別や浸透した固定観念などのために、プロフェッショナルとしての地位向上に立ちはだかる障壁に直面しています。モデルマイノリティ俗説とは、AAPI の社員は賢く勤勉で、従順であると決めつける包括的な思想です。このような考え方は、アジア系米国人のキャリア形成を妨げている障壁を覆い隠してしまう点で問題になっています。
この俗説は、表面的には褒め言葉のように聞こえるかもしれません。しかし実際のところ、このようなステレオタイプ化された考え方によって人種的な固定観念が定着し、個々人の苦労が無視され、幅広いはずのアジア系米国人のコミュニティが単純化されてしまいます。そして同時に、この俗説はマイノリティが目指すべき手本として、他の人種に対して武器として利用されてしまいます。
しかしながら、アジア系米国人は単一の文化に属する人たちで構成されているわけではありません。Diversity, Inc. によると、AAPI の文化遺産は、45以上の国籍、さらに多くの民族、そして世界人口の60%を占める数十億人の人々によって成り立っています。
企業のリーダーシップ層におけるアジア系米国人の割合は低いものの、テック業界では徐々に改善傾向に
「ガラスの天井」(昇進などを阻む目に見えない障壁) から派生した「竹の天井」という比喩は、アジア系米国人のキャリアアップを妨げる個人的、文化的、企業的な要因を象徴したものです。アジア系米国人の占める割合を、一般社員レベルと役員レベルで比較すると、非常に対照的です。
調査によると、アジア系米国人について以下の事実が明らかになっています。
アジア系米国人は全専門職の27%を占めているにもかかわらず、全役員に対するその割合は14%に過ぎない
アジア系米国人は、管理職に昇進する可能性が最も低い人種である
特に、アジア系女性が経営幹部レベルに占める割合はさらに少ないとされています。テック業界に焦点を当てた調査によると、専門職を持つアジア系女性で役職に就く人はわずか285人に1人である一方、白人男性の場合は87人に1人です。
パネリストたちは、テック業界の経営幹部層におけるインクルージョンの度合いが高まる傾向が、過去10年で見られていると述べました。より多くのリーダーが、リーダー層に多様性が欠如していることを認め、不平等をもたらす組織内のプロセスを見直しています。とはいえ、AAPI が少数派であるという傾向は絶えず存在するものであるため、これに対処するにはトップダウンの持続的な支援が必要です。
AAPI の生い立ちはキャリア成功の妨げと なりうる
米国の職場では、リーダーシップを発揮するためには、自己主張ができること、圧倒的な存在感があること、外向的な性格であることなどが評価されます。しかし、アジアの文化で職場にふさわしいと考えられる行動は、欧米でキャリアを成功させるために適切である、あるいは期待されているものとは相反することが多いのです。参加者達は、アジア系米国人の両親からの教えは次のようなものだったと語っています。
「自分の意見を述べず、大人しくしていなさい」
「過度のストレスがかかり、誤った判断の責任を負うことになるので、リーダーを目指すのはやめなさい」
「昇進や昇給を求めるのは失礼」
「自己主張は、解雇などの負の結果を招く」
「ひたむきに仕事に集中していれば、いつか認めてもらえる」
「自分のキャリアの現状に満足し、感謝しなさい」
あなたのアジア人の同僚は、生来の文化的教育を振り払い、先入観に対抗するために多大な努力をしているのかもしれません。そのため、アジア系社員は「仕事はできるけど、リーダーには向いていない人」と見られてしまうことがあると、Saurabh Sharma 氏は話します。
「駆け出しの頃は、自分の発言に自信が持てず、なかなか意見を述べることができませんでした。私が考えていることは、どうせ他の人も考えているだろうと思っていました。発言をすることさえも、私にとって本当に勇気のいることでした」と Grace Dolan 氏は語ります。そうした壁を乗り越えた彼女は、他人のトークトラックを認め、肯定の輪を広げていくことが大切であると感じています。
大人しく、自分からアピールをしないといった文化的特性は、キャリアアップに欠かせないネットワーク構築の妨げになることもあります。多くのリーダー職は、外部からの応募ではなく、個人的な紹介で採用されています。
「キャリアを成功させるためには人的ネットワークの構築が欠かせません。しかし、そのような行動が自分の文化的慣習に反しており、職場にて悪影響を及ぼしてしまう場合、キャリアアップの道が妨げられてしまいます」と Grace Dolan 氏は話します。「自分と似ている人には自然と過信のバイアスがかかるものです。『この人とは似たところがあるから一緒に仕事をしやすいと思う』『この人は私と同じ起源を持っているから仕事ができるだろう』と信じてしまいます」
「あなたが最適な人材だったとしても、ネットワーク内にて強い印象が残っていなければ、候補として考慮されないかもしれません」と Rajib Rashid も語っていま す。
アジア系のリーダーがキャリアを成功させるには
リーダー層に占める AAPI の割合が乏しいと、悪循環を招きます。キャリアパスを切り開いてきたアジア系リーダーがいなければ、アジア系社員は、上昇軌道に乗るために欠かすことのできないロールモデルやメンター、スポンサーなどと接する機会が少なくなってしまいます。そうなると、アジア系社員は、自分で自分を守る方法を見つけなければならないのです。パネルディスカッションでは、次のようなアドバイスが紹介されました。
組織内での影響力を得る : 「ただ仕事をして、評価されればいいというものではありません」と Saurabh Sharma 氏は話します。「大切なのは、多少困難な仕事や役割にも積極的にチャレンジし、意見を述べることです」
自身のブランドを確立させる : 「自身のブランドとは何かを考えることは、とても重要です。あなたが自らのブランドを構築せず、何も発言しなければ、他の人たちが自分の偏見や思い込 みに基づいてあなたのブランドを決めてしまいます」と Jully Kim 氏は語ります。
自分の意見を主張する : Grace Dolan 氏によれば、「今日のビジネスリーダーには、これまでのリーダーとは全く違う能力が求められています。もはや、仕事をこなし、数字を達成するだけでは不十分な時代です。現在企業が求めているのは、思想的リーダー、勇敢なリーダー、そしてピープルリーダーです。自分の意見を発信することで、昇進に関する判断がより容易になります」
メンターを見つける : 「尊敬できる人や、自分がやりたいことを成し遂げた人を探してみてください」と Rajib Rashid は提案します。「実際に会話をしてみて、彼らの歩んできた道に興味を持っていることを伝えてみましょう。正式な関係である必要はありませんが、自然な相互関係を築けるかどうかが重要です」
これらのアドバイスはテック業界の AAPI を対象としたものですが、あらゆる職場で働くアジア系米国人の経験にも当てはまるものです。また、意見の多様性、そして仕事やコミュニケーションのスタイルが許容されるだけでなく、積極的に奨励されるような、インクルーシブな環境を育むための注意喚起としての役割も果たしています。