2020年を振り返る : 新型コロナによりさまざまな業種でトラフィックが増加
観測の概要
新型コロナウイルス感染症の拡大に伴うインターネット利用の増加により、デジタルメディア出版、教育、ソーシャルメディアなど、特定業種のトラフィックで「新型コロナによるトラフィック増加」が見られました。
夏季休暇終盤の8月は、南北アメリカ、EMEA (欧州・中東・アフリカ)、APAC (アジア太平洋) の全地域でオンライン販売のトラフィックが増加しましたが、商戦期に合わせてトラフィックが増加したのは南北アメリカと EMEA のみでした。
2020年の米国大統領選挙に関連したイベントがオンライン上で注目を集めるなか、ミーム の共有、ソーシャルメディア、デジタルメディア出版のトラフィックが増加しました。
世界中の多くの人々が日常生活の中で何らかの形でインターネットを利用していますが、2020年に教育、仕事、商取引、コミュニケーションにインターネットがここまで欠かせないものになるとは、ほとんどの人が予想していませんでした。新型コロナウイルスの感染が世界中で急速に広がり、外出禁止令が発令され、通学、オフィスへの通勤、お気に入りの実店舗での買い物などができなくなり、日常生活が急に混乱しました。
ライフラインとしてのインターネットの役割が拡大したことで、年初の数か月間はインターネットの利用が急速に増加し、多くの業種のトラフィックグラフで、新型コロナに起因する明らかなトラフィック増加が見られました。この記事では、集約された Fastly のお客様のトラフィックデータに基づいて、2020年に観測されたトラフィック*の動向に関する興味深い結果をいくつかご紹介します。
出版業界のトラフィックピークは米国大統領選挙
デジタルメディア出版の顧客全体の総トラフィック量は、昨年の3月にわずかな増加が見られました。これは新型コロナウイルスの感染拡大に関する最新のニュースや情報、各地方政府や州政府、中央政府による対策情報などを求めるユーザーによるものと考えられます。しかし、この業種でトラフィックが最も増加したのは、米国大統領選挙に関連したものでした。グラフが移動平均で表示されているため、このイベントの真のインパクトが分かりづらいのですが、この業種のトラフィックは、世界中が注目していた11月3日 - 4日に2倍に達しました (大統領選挙に関するブログ記事で、このデータの詳細を見ることができます)。年末に見られたトラフィックのわずかな落ち込みは、クリスマスから新年にかけて毎年生じる季節的な落ち込みと一致しており、複数の業種で見られました。年末までの9か月間、ほとんど毎日オンラインを利用してきた人たちは、一年の最後の週はオフラインで活動することを選んだようです。
ソーシャルメディアの利用
Fastly のプラットフォームにおけるソーシャルメディアのトラフィックは、2020年前半に徐々に増加したものの、後半には横ばいとなりました。このような長期的なトラフィックパターンに加えて、上のグラフにはいくつかのトラフィックスパイクが見られます。これは、大きなイベント前後にソーシャルメディアプラットフォームの利用が増加したことを示しています。2020年の米国大統領選挙ではソーシャルメディアが重要な役割を果たしました。そして予想通り、11月3日から4日にかけてこの業界のトラフィックが明らかに増加しました。年間を通じて観測されたその他のスパイクについては、その原因を何か月も経ってから正確に特定することは困難ですが、トップニュース記事を見直すことで、関連する出来事を推測できます。1月下旬には数日間にわたってトラフィックが増加し、29日にピークを迎えました。これは、その数日前に起こったバスケットボールの元スター選手であるコービー・ブライアント氏とその娘を含む9人が死亡したヘリコプター事故と関連があると思われます。6月初旬に見られたトラフィックの増加は 、ジョージ・フロイド氏の死亡事件に対する抗議のソーシャルメディア投稿が原因と考えられます。また、7月24日にアクセス数が増加したのは、2020年のメジャーリーグの開幕が予定よりも4か月遅れたことに関する投稿が原因と推測されます。年末に見られたトラフィックのわずかな落ち込みは、クリスマスから新年にかけて毎年生じる季節的な落ち込みと一致しています。
ミームに残る瞬間
家から出られない生活に適応しながら、暇つぶしに動画を見たり、ゲームをしたりすることに加えて、ミームを作成して共有する人も増え ました。この分野では明らかに新型コロナに起因するトラフィックの増加が見られ、全体で45 %増加しました。データを見ると、バレンタインデー (2月)、第1回米大統領選候補者討論会 (9月)、クリスマス/大晦日 (12月) の前後にもミーム共有が活発化しています。
実店舗が閉まってもショッピングは続けられます
南北アメリカ全体で外出禁止令が出され、多くの店舗がシャッターを閉めたり、入店を制限したり、受け渡しのみのサービスに切り替えたりすることを余儀なくされました。このような変化により、買い物客は地元の店舗にネット注文して受け取りや配達を依頼したり、オンラインショップを利用する機会が増えました。北米のオンライン小売業者へのトラフィックを見ると、買い物客が積極的にオンライン購入を行うようになったことで、新型コロナによるトラフィック増加が顕著に現れており、第2四半期の平均トラフィックは第1四半期の平均を40 %上回っています。2020年後半には、学生が学校に戻ったことで (対面、オンラインを問わ ず) 、トラフィックがその前の3か月間 (5月〜7月) の平均に比べて32 %増加しました。また、「サイバーファイブ」と呼ばれる米国の感謝祭の週末には、配送期限に間に合うように注文しようと買い物客が殺到したため、9月と10月の平均トラフィックに比べて50 %増えました。
EMEA 地域のオンライン小売業者でも、大規模な国レベルのロックダウンが実施されたことで、グラフが示すように新型コロナによるトラフィック増加が発生しましたが、それに先立ってトラフィックが20 %減少したのは (1月と2月の平均トラフィックレベルと比較して) 、状況の変化に伴う不確実性に起因する支出減少や、各地域で規制が実施されはじめ、配送サービスが制限される可能性があったためと思われます。サイバーファイブの週末には顕著な増加が見られましたが、12月に入るとトラフィックは急速に減少し、ピーク時の50 %にまで落ち込みました。これも、配送時期に関する懸念が原因と考えられます。また、グラフによると年末にかけてトラフィックが再び増加しており、データを細かくチェックすると、クリスマス明けのボクシングデーに明らかな増加が見られました。
アメリカや EMEA とは対照的に、APAC のオンライン小売業者の間では、第1四半期に新型コロナによるトラフィック増加は見られませんでした。しかし、8月は同様にトラフィックが増加し、グラフが示すように7月の平均から40 %拡大しました。この増加の要因は明らかではありませんが、地域的に新型コロナウイルスの感染者数が増加していたことと関係があるかもしれません。トラフィックは年間を通じて増加傾向が続き、世界の他の地域でも見られたサイバーファイブの週末の活発なアクティビティの後、12月第1週にピークを迎えました。このピークはその前の3か月間 (9月 - 11月) の平均よりも24 %高いものでした。
旅行の計画は ?
トラベル&サービス業界では、新型コロナウイルスの感染拡大や各国が国境を閉鎖したことが原因で、トラフィックが急激に減少し、パンデミック前のピーク時から77 %減りました。しかし、年の中盤には著しく回復し、1月の最高値をわずか5 %下回っただけでした。残念ながらこのようなトラフィックの増加が、レジャー旅行の復活によるものなのか、将来の旅行計画を楽観的に立てている人たちによるものなのか、あるいは外出禁止の疲れから「空想」の旅行先をただ検索している人たちによるものなのかは定かではありません。また、11月から12月にかけてトラフィックが大幅に落ち込むという興味深い現象が見られ、回復期のピーク時と比較して72 %減少しました。これは、世界各地で新型コロナウイルス感染者の増加に伴い外出禁止令や旅行規制が再導入された影響によるものと思われます。
キッチンが教室に
米国および世界各地でロックダウンや外出禁止令により学校が閉鎖され、学校や大学は学習をオンラインに移行するために奔走せざるを得ませんでした。このオンライン学習へのシフトの影響は、3月に見られた大幅なトラフィック増加にはっきりと表れており、3月30日のピーク時のトラフィックは、パンデミック前の1月および2月の平均トラフィックと比較して143 %増でした。そして予想通り、夏季休暇にはいるとトラフ ィック量は減少していきました。2020年 - 2021年度に向けて、8月にはトラフィックが再び増加しました。一部の地域・国では生徒が教室に戻ることができましたが、その他の地域・国では完全なリモート学習であったり、自宅と学校の両方で学習するハイブリッドモデルを採用していました。秋のトラフィックレベルが春のピーク時よりも少ないのは、このような学校での学習への部分的な回帰が反映されています。米国の学校休暇期間や祝日を含む大型連休の影響もグラフに現れており、年末のトラフィック量は9月 - 11月の平均トラフィック量を52 %下回っています。
トラフィック増加への対応
「通常」の年に予想されるトラフィックの増加に対応するためにインフラをデプロイするには、複雑なモデリング、出張計画、サプライチェーンマネジメントなどが必要になります。しかし、前述のような世界的なトラフィックの急増に対応する必要がある場合、特にインフラとデプロイのチームが現地に行くことができなかった時期には、新たな固有の課題に直面しました。幸い Fastly はリモートファーストの世界でキャパシティプランニングとネットワーク拡張を可能にするプロセスとプランを導入したため、これらの課題に十分対応することができました。このプロセスとプランは、コンセプトから本番環境へと迅速に作業を進めることを可能にする「Rack and Roll」というアプローチに基づいています。これは、スケーラビリティと反復性を備えたプロセスを実現する Fastly 独自の POP デリバリーのアプローチです。
最後に
2020年が通常の年でなかったことは間違いありません。この一年を通じてインターネットは、直接会えない友人や恋人、家族とのコミュニケーションの手段として、お店に行けないときの食料や日用品の購入手段として、テレビ番組や映画、ゲームでリラックスするための手段と して私たちの生活にさらに深く浸透していきました。パンデミック以前にも同じような目的でインターネットを利用していたことは確かですが、トラフィックの動向を見ると、外出禁止令が実施されたことで世界的に利用者が増加し、特定の業界のトラフィックが年間を通じて増加し続けたことがわかります。2021年はこの「非日常的」な状況から脱却できるのでしょうか ? それは現時点では明らかではありませんが、インターネットが今後も重要な役割を果たし、「デジタルデバイド」と呼ばれる情報格差への対応の重要性がさらに高まることは間違いありません。
* データ分析に関する注意事項
この記事で取り上げた顧客の業種グループのデータは、Fastly の CRM システムにおける顧客の業種/サブ業種の分類に基づいて集計されています。(ソーシャルメディアとミームに関するデータは、メディア&エンターテインメントの顧客データをカスタム集計したものです。)
トラフィックのソースデータを分析する際、場合によっては単一の顧客のイベントや当社の管理が及ばないその他の要因に起因する例外的なデータを削除しています。デジタルメディアの業種グループでは、1日の総配信量 (GB 単位) がトラフィックの指標に使用され、その他の業種グループでは、1日の総リクエスト数がトラフィックの指標に使用されています。
この記事に掲載されているグラフは、短期的な変動を排除し、顧客の匿名性を維持するため、トラフィックの7日間移動平均を示しています。グラフには若干の変動の幅がありますが、グラフは全体的なトラフィック動向とその要因に焦点を当てることを目的としています。本文中に記載されているトラフィックの変化の割合は、トラフィックのソースデータから算出されたものです。